農業と林業の兼業は、地域の持続可能な発展と経済的安定を図るための重要な取り組みです。そもそも農業と林業は主な活動時期が異なるため兼業のバランスが良く、年間を通じて安定した収入を得ることができます。
農林業を兼業することの魅力と利点、支援情報などについては以前の記事でご紹介しています。
田舎暮らしの魅力と農林業の可能性:新しいキャリアの選択肢
この記事では、別の視点から農林業の未来についてお話してみたいと思います。

農林業を兼業するメリット

まずは簡単に農林業の兼業のメリットについて説明します。

季節ごとの活動と収入の安定性

農林業の兼業では、まず季節ごとの活動が異なるため、年間を通じて収入の予測を立てやすく、安定します。例えば、夏には農作物の栽培・収穫・出荷を行い、冬には山林の手入れや間伐などを日当で手伝ったり、自分の山であれば、木材や山で採取できるものを出荷することも可能です。

技術と知識の相互利用

農業と林業の技術や知識を相互に利用することで、効率的な生産活動が可能となります。農地を開墾するにも林業技術があればコスト面でも安価になり、農地周辺の山を健康に保つことで獣害から農作物を守ったり、農業用水の確保や自然災害の予防にも役立ちます。

地域経済への貢献

基本的に林業も農業も個人もしくは少人数で経営している場合が多く、人手不足と言いつつも、通年雇用は難しいという側面があります。農業の繁忙期、林業の繁忙期にお互いの労働力を融通し合えば地域全体の経済活動が活発化し、持続可能な発展が期待できます。

別の視点から~アグロフォレストリー~

ここまでは農業と林業の兼業という視点でお話してきました。
しかし世界的には、植林と農業、畜産を組み合わせた伝統的技術が存在し、地力劣化などによる低生産性と低所得の悪循環の問題解決へと導くひとつの方法として注目されています。兼業ではあるものの、林業と農業を「同一の土地で行う」という特徴が従来の兼業とは大きく異なります。

言葉の意味

アグロフォレストリーとは、アグリカルチャー(農業)とフォレストリー(森林)を掛け合わせた造語で、1970年代中期につくられた言葉です。日本語では、農林複合経営、森林農業とも言われています。

分類

アグロフォレストリーは、その経営方法によって大きく3つに分類されています。

  1. 農林複合システム:圃場全体の空間を最適な方法で利用できるところが特徴。よく見られる手法としては樹木間に作物を植える方法で、同じ土地に樹木と農作物を同時に生産する。
  2. 林畜複合システム:家畜を放牧する際の牧草の育成が有利になる組み合わせ。土壌や土壌水分が保全され、家畜を強い日光から保護し、その生育を促進する。
  3. 農林畜複合システム:上記二つを組み合わせたもので、樹木の下で作物と牧草を交互に生産する方法。家畜の食害を防ぐため、初めに早生樹を植林し、放牧をはじめるまでに樹木を十分に生育させておく必要がある。

メリットとデメリット

  • メリット:農業における「単一栽培(注1)」「病害虫被害」「高温障害(注2)の抑制などとともに、植物残渣等の養分の循環によって有機物含有率を増加させ、土壌の地力回復、生態系の回復などのメリットがある。
  • デメリット:樹木の本数や樹木の種類の選定を誤ると、日光が必要以上に遮断されてしまうことなどで農業との共生が難しくなり、生産性が減少する。また機械作業を行う際に、樹木が作業の障害になることがある。


🞾(注1)単一栽培…単作とも言い、同じ作物だけを栽培すること。作業を単純化できるため収量も上がるが、継続することで土壌の成分が偏り、それを補う肥料を投入するために土の中の生態系が崩れ土壌が弱くなると言われている
🞾(注2)高温障害…気温の急上昇によって農作物が育たなかったり、色や味が悪くなったりすることを言う

人口増加が土地を荒廃させた?

まだ人口が少ない時代は、森林から木材を得つつ無施肥で作物を育て、地力が劣化するとその土地から移動するという経済活動を繰り返しても土地の荒廃が広がることはありませんでした。森林が再生するまでの時間がそこにはあったからです。しかし人口の増加にともなって、森林が充分に再生されないまま耕作され、土壌は消耗、森林は草原化し荒廃していくこととなります。それらが繰り返され、森林はどんどん減少していったのではないかと言われています。

具体例:ブラジルトメアス「遷移型アグロフォレストリー」

まず収穫までの期間が1年内のトマトや豆類などの作物を植え、次いで多年生の中期作物を植え、ある程度育った頃に有用高木の苗を植え、その成長時期をうまく組み合わせることによって畑からは絶え間なく収穫があるようにする農法です。
安定的に収入を得られる上、熱帯林の保全にも貢献できる、この農法を「システム」化したのが移住しトメアスで農業を経営していた坂口陞さんと言われています。

特に【遷移型】と言われる理由は、その過程にあります。植物のないところに、長い年月をかけてその土地にあった植物が入れ替わるように生育し、いわゆる森林を形成していくまでのことを「遷移(せんい)」と呼びます。また森林の最終段階を「極相(きょくそう)」と言い、最終段階に近づくに従って高木の森となっていく、トメアスのアグロフォレストリーは、この様子を人工的に模していると例えられることから【遷移型】と呼ばれています。

トメアスで作られたフルーツやカカオは、日本にも多く輸入されています。
明治チョコレートでも、トメアスのカカオで『アグロフォレストリーミルクチョコレート』が販売されています。
見つけたら、ぜひ味わってくださいね。


アグロフォレストリーは日本でも成立するか?

アグロフォレストリー確立の要件

さてそれでは、日本でアグロフォレストリーは確立できるのか?
という疑問が湧いてきますね。
そして、ここまで読まれた方は薄々感づいておられるとは思いますが、世界で行われているアグロフォレストリーは、「荒廃」した「広大な」土地の地力を回復するということが、システム採用の大きなきっかけとなっています。それはつまり、単一栽培で経済活動がうまく回っている日本の農家では採用されない、ということを意味します。そもそもアグロフォレストリーシステム化のきっかけも、トメアスでの壊滅的な胡椒の不作が起因していたのですから、致し方無いと言えばそれまでです。

日本型アグロフォレストリー

日本でも、里山で林畜複合経営など、少ないですけどシステム採用事例はあります。ですが、それだけで経営が成り立つかについては疑問が残ります。
日本には世界で行われている地域のように広大な土地がありません。そして日本は平地の少ない地形であるということ、担い手不足、耕作放棄地、その他の問題を考えれば、今ある農地を守るためのアグロフォレストリーである必要があります。そしてつい「環境にやさしい」を第一に考えてしまいがちですが、それではすぐに廃れてしまいます。そこに収入の安定があってこそ「アグロフォレストリー」のシステムです。
日本型として、新たな発展を願うばかりです。

現在日本では、アグロフォレストリーで生産した作物を日本企業が購入するという方法で、この持続可能な農業を応援しています。

まとめ

記事では、農業と林業の兼業について、そして世界で行われている農業と林業の複合経営「アグロフォレストリー」について解説しました。この記事を通じて、持続可能な複合経営のしくみなどを理解していただければ幸いです。日本型のアグロフォレストリー、農林業の新たな未来を考えてみませんか。

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参考と引用:
ブラジル移民の100年「アマゾンのアグロフォレストリ」https://www.ndl.go.jp/brasil/column/agro.html
フルッタフルッタ「アグロフォレストリー」https://www.frutafruta.com/fruit/agroforestry/
東アジアにおけるアグロフォレストリーの特質とその成立要件(信州大学農学部)
アグロフォレストリーマニュアル(国際農林水産研究センター)
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