都市部に住む多くの人々にとって、田舎での生活や仕事は遠い世界の話に感じられるかもしれません。しかし、日本の農林業は今、大きな転換期を迎えています。後継者不足が深刻な問題となっている中で、都市部の若者が田舎に移住し、新たな生活と仕事を始めることが注目されています。
この記事では、農林業に従事することの魅力を掘り下げ、都市部の若者が田舎での新しいライフスタイルに挑戦する意義について考えてみましょう。

農林業の現状と課題

日本の農林業は長い歴史を持ち、地域経済や文化に深く根ざしています。しかし、近年では高齢化と過疎化が進行し、後継者不足が大きな問題となっています。特に農業では、高齢化した農家が多く、若い世代へのバトンタッチが進んでいません。また、林業も同様に後継者不足が深刻であり、森林の管理や木材の生産に影響を及ぼしています。

このような状況を打開するためには、都市部の若者が農林業に関心を持ち、積極的に参入することが不可欠です。
幸いなことに、近年では「地方創生」「地域おこし協力隊」といった取り組みが進んでおり、若者が地方で新たな生活を始めるための支援体制も整いつつあります。

農業の魅力

農業は単なる食料生産だけではなく、自然との触れ合いや地域コミュニティとのつながりが深い仕事です。農業の魅力をいくつか紹介します。

     農業インターンシップ17期より

  1. 自然との共生:農業は季節の移り変わりや天候の変動を感じながら行う仕事です。ふとした時に空を見上げる、風を感じる。もうすぐ夏が来るという空気や秋の深まりなど、都会で暮らしていると忘れそうな感覚を思い出させてくれます。
  2. 自給自足の喜び:自分で育てた野菜や果物を収穫し、それを食卓に並べる喜びは格別です。食の安全性を確保しながら、自給自足により近い生活を実現できるのも農業の魅力です。
  3. 地域コミュニティとの絆:農村では人々のつながりが非常に強く、地域コミュニティとの交流が盛んです。農機具が突然故障しても、治るまで作業を止めていると間に合わないことがあったり、時期を逸すると難しいのが農業です。そのため助け合いの精神が根付いており、地域全体で協力して農作業を行うこともあります。

林業の魅力

林業もまた、自然との深いつながりを持つ仕事です。林業の魅力を紹介します。

     林業インターンシップ9期より

  1. 森林の再生:木材の出荷だけが林業ではありません。全く人の手が入っていない森や山で間伐を行い、日の光が差し込む健康的な森林を作る。単に仕事というくくりではない、爽快感を感じるとともに、自分の仕事への誇りも感じると言います。
  2. 手仕事の魅力:林業には手作業が多く、木を伐採し、加工する過程には職人技が求められます。最近は大量生産のために機械を利用するところも増えましたが、できることは限られており、本当に木を使い切るためには手仕事が不可欠です。手仕事を熟練することで将来的には小さな林業を営むこともでき、その魅力に引き込まれる若い人も増えています。
  3. 森林の癒し効果:林業は森林で木に囲まれてする仕事です。その仕事内容は危険なことも多いですが、鳥の声、風で葉のこすれる音など自然とのつながりを感じながら、「木と対話」をする、農業とはまた違った自然との共生があります。

農業と林業の違い

農業と林業はどちらも自然を相手にする仕事ですが、その性質や作業内容には違いがあります。ここでは、両者の違いについて詳しく見ていきます。

農業

  • 作物の栽培:農業は主に作物の栽培を中心としています。自ら土地を開墾し、農地として、基本は同じ場所で栽培を継続します。その決まっている限られた農地をうまく利用するために、季節ごとに違う作物を植えたり、収穫時期が異なるように栽培したりと、年間を通じてその農地と風土に見合った営農計画を立てて作業が行われます。
  • 収益の方法:農業は比較的短期間で成果が見える仕事であると言えます。種を蒔いてから収穫までのサイクルは長くても1年以内のものが多く、そのため結果を翌年にすぐ活かすことができます。農業は栽培していても収穫までは売り上げがないため、作物ごとの成長周期を把握し、2~3か月とさらに短期間で収穫できるものと組み合わせて、収益を安定させることが必要です。

林業

  • 森林の管理:林業も以前は、自分の山から伐り出してきた木を収益化するという農業に近い経済活動でしたが、木の値段の下落に合わせて放置される山が増え、現在は森林の管理という意味での間伐など、森林組合などのように別途森林の所有者がいる山を管理しつつ、できる限り収益化するという流れになってきています。自分の山を自分で管理して経済活動も行う「自伐林家」は減少の一途を辿っています。
  • 収益の方法:林業は木の成長に長い時間がかかるため、本来であれば長期的な視点が求められます。自分の山であれば、植樹から伐採まで数十年のサイクルで計画を立てる必要がありますが、現在の日本ではすでに伐採期まで成長し伐らなければならない立木も多い状態です。考えなければならないことは、伐って出すまでにかかるコスト、高く売れるような木を選び、伐倒することです。いくら材質が良くても、伐るときに傷をつけたりすると値は下がります。1本の良木をうまく収益化する計算と知識が必要です。

農林業へのチャレンジを後押しする取り組み

都市部の若者(就業予定年齢が農業は49歳まで、林業は45歳までを想定)が農林業に挑戦するためには、さまざまな支援が必要です。以下は具体的な取り組みです。

  1. 地域おこし協力隊:総務省が実施する「地域おこし協力隊」は、都市部から地方への移住を促進し、地域活性化を図る取り組みです。農林業をはじめ、さまざまな分野での活動が活動対象となっています。自治体によって異なりますが、基本は月給制でお給料をもらいながら、地域ならではの仕事にチャレンジできます
  2. 農業研修プログラム:農業に興味を持つ若者向けに、さまざまな研修プログラムが用意されています。例えば短期間の「農業インターンシップ」、農業法人やJAで現場を学びながらの研修、農業学校や研修機関での学習など、自分の希望に合わせて選ぶことができます。
  3. 移住支援金東京23区外へ移住する際に支給される支援金で、最大100万円(単身者は最大60万円)が条件を満たす人に支給されます。支給額は移住先の都道府県によって異なります。
  4. 就農準備資金: 都道府県が認める農家などで研修を受ける際に年間最大150万円を最長2年間交付。交付には研修時間や就農時年齢など条件があります。
  5. 経営開始資金: 新規就農される方に、就農直後の経営確立を支援する資金を年間最大150万円、最長3年間交付。交付には認定新規就農者である必要があり、その他交付要件があります。
  6. 緑の青年就業給付金: 林業への就業に向けて、都道府県の林業大学校などで研修を受ける場合に申請できる給付金です。給付金額は研修機関の条件によって異なり、最長2年間支給されます。
  7. 緑の雇用: 林業へ新規就業する方向けに、林業経営体が行う研修費用を助成する支援金です。これにより、事業体は未経験者への研修費用等の負担が軽くなるためキャリアアップの機会が増えます。

農林業におけるテクノロジーの導入

近年、農林業にもテクノロジーの導入が進んでいます。これにより、効率的な作業が可能となり、若者にとって魅力的な仕事環境が整いつつあります。

  1. スマート農業:センサーやドローンを活用したスマート農業は、作物の生育状況をリアルタイムで監視し、適切な施肥や灌漑を行うことができます。これにより、生産性の向上と労働負担の軽減が期待されます。
  2. ICTを活用した林業:林業では、GPSやリモートセンシング技術を用いて森林の状況を把握し、効率的な伐採計画を立てることができます。また、機械化による作業の効率化も進んでおり、重労働から解放される場面も増えています。

おわりに

農林業には、自然との共生や地域コミュニティとの絆、手仕事の魅力など、都市部では得られない多くの魅力があります。都市部の若者が田舎に移住し、新たな生活と仕事に挑戦することは、個人の成長だけでなく、地域社会や日本全体にとっても大きな意義があります。
この記事を通じて、多くの若者が農林業に興味を持ち、新しい一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。

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