【地方移住レポート2025】若者と一次産業の動向から見る日本の地方創生の現在
日本の地方創生政策が本格化して約10年が経過し、特にコロナ禍を経て地方移住への関心は大きく変化しています。このレポートでは、最新の統計データと調査結果をもとに、若者の地方移住への関心、一次産業への参入動向、田舎暮らしのトレンド、そして移住支援制度の効果について分析してみました。
1. 若者の地方移住への関心動向
若者の地方移住に対する意識
トラストバンク地域創生ラボの2024年調査によると、東京圏(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)に住む15歳~29歳の若者のうち、45.6%が地方で暮らすことに憧れを持っています。この憧れの背景の理由は下記の3点のようです。
・地方でのスローライフに魅力を感じる: 49.0%
・都会の喧騒から離れたい: 32.9%
・心機一転できそう: 29.5%
※トラストバンク地域創生ラボ調査より
これらの結果から、都会での生活疲れが若者の地方憧れの一因となっていることが窺えます。
しかし、実際に移住を検討する際のボトルネックもはっきりと現れています。
・交通の便: 61.6%
・働き先の有無: 37.2%
・金銭面: 26.7%

地方暮らしのスタイル希望の変化
注目すべき変化としては、移住希望のスタイルの多様化があげられます。2024年の調査結果です。
・完全移住希望: 35.5%(前年比12ポイント減少)
・お試し・短期間移住希望: 34.1%(前年比12ポイント増加)
この変化は、若者が地方との関わり方を柔軟に考える傾向が強まっていることを示しています。
2. 若者の一次産業への関心
農業に対する関心の高まり
若者、特にZ世代(20~24歳)の農業への関心は高く、トラストバンク地域創生ラボの調査によれば、Z世代の約65%が農業に関心があると回答しています。これは全世代の中でも最も高い数値です。
また、下記のような特徴があります。
・食や生き物への興味: 農業に関心を持つ主な理由(35.3%)
・日本の課題への意識: 上記農業への関心の理由として28.3%が挙げる
・漁業への関心: 全世代平均の約2倍(約20%)の若者が関心を示す
※農業に関する意識調査より
農業体験への意欲
特筆すべきは、若者の農業体験への意欲の高さです。
Z世代の短期ボランティアや短期就労の希望度は64.1%という高い数値で、全世代平均の36.8%を大きく上回っています。
デジタル世代であるからこその原点回帰とも言え、この高い意欲に多くの機会を与えることが今後の日本の農業を変える力になるかもしれません。

3. 地方移住希望地の最新トレンド
2024年の人気移住先ランキング
2024年の移住相談件数は61,720件で、前年比4.1%増となり、4年連続で過去最高を記録しました。
ふるさと回帰支援センターの2024年調査によると、窓口相談で人気の移住希望地は下記だそうです。
- 群馬県(初めて1位に)20~30代の相談が増加、子育て環境や災害の少なさが魅力
- 静岡県(前年1位から順位変動)東京からのアクセスや気候の良さが評価
- 栃木県コンシェルジュ制度の導入、住宅コストの低さが魅力
特に北関東(群馬県・栃木県)の人気が高まっていることが特徴的です。
※ふるさと回帰支援センター調査より
4. コロナ禍以降の地方移住の変化
移住意識の変容
コロナ禍は地方移住の意識に大きな変化をもたらしました。
まず、 東京一極集中からの変化です。東京都の転入超過数は2018年の79,844人から2021年には5,433人へと大幅に減少しました。またコロナ禍によりテレワークが推進されたことも拍車を掛けた形です。
移住先選定基準の変化
移住先を選ぶ際の基準にも変化が見られます
コロナ禍以降、移住者や移住希望者が「地域の食・文化」をより重視する傾向になり、希望者の68.5%が県庁所在地など「地方都市」を希望するようになりました。
いわゆる「田舎暮らし」を求めて移住していた層より、子育て世代などがより現実的に移住を目指した結果ではないかと推測します。
5. 地方移住支援制度の効果と課題
自治体の移住促進施策の現状
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)の2024年調査によると、83.2%の自治体が移住促進施策を実施しています。
しかし、「効果が大きいと感じている自治体は10.6%にとどまる」という結果に。
近年では89.6%の自治体が移住者獲得競争の高まりを実感しています。
※GLOCOM調査より
移住者定義の課題
移住促進施策を行う上での重要な課題として、自治体による「移住者の定義」というものがあります。実際「移住」と「転入」を同義とするのか曖昧なままでは、その実態を正確に把握できないと言われています。
現在、独自に移住者を定義している自治体はわずか13.2%で、47.9%の自治体が「移住者の定義」を持たない状態で施策を実施している状態です。
移住促進施策の効果や今後を考える際に、「移住者」という定義を明確化することが必要になると感じています。
効果的な施策と今後の方針
現在、効果的な移住促進策として各自治体が行っているものは下記となります。
・空き家バンクの設置: 移住促進自治体の87.8%が実施
・移住相談窓口の設置: 85.8%が実施
・移住者への金銭的支援: 74.9%が実施
今後の方針としては84.8%の自治体が移住促進施策の規模拡大または維持を予定しているとのことです。
移住促進の波はまだまだ続くと予想されます。
まとめ
- 多様な移住形態の受け入れ: 完全移住だけでなく、二地域居住やお試し移住など柔軟な形態の充実
- 若者の農業参入支援強化: Z世代の農業への高い関心を活かした施策の展開
- 移住者定義の明確化と効果測定: 自治体が移住者を明確に定義し、政策効果を測定する仕組みづくり
日本の地方移住は、コロナ禍を経てより多様な形で広がりを見せています。特に若者の間では地方や一次産業への関心が高く、潜在的な移住希望者は多いものの、交通インフラや雇用機会などの課題も依然として存在します。今後は、多様な移住形態を受け入れる柔軟な支援策と、若者の一次産業参入を後押しする取り組みが重要となるでしょう。
地方創生が本格化して約10年、地方移住の流れは着実に広がりを見せています。この流れを一時的なブームで終わらせないためには、移住者と地域がともに持続可能な関係を築くための施策が求められるのではないでしょうか。
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